寄せされたお言葉

上映会を通じて頂いたご感想

四宮 鉄男 さん (映画監督)

 映画のチラシに、監督の由井英さんが「『オオカミの護符』に導かれ、“お山”の世界へ…。」という短い文章を書かれていた。そこに、この映画のことを簡明に説明されていた。

 『都心からほど近い“川崎市宮前区土橋”の古い土蔵に貼られた一枚の護符。この護符には、土地の人が「お狗さま」と呼ぶ獣が描かれています。私たちは、この護符がもたらされる「土橋御嶽講」を取材する中から、土橋、馬絹、武蔵御嶽山、東京都調布市、埼玉県三芳、そして秩父と、「オオカミの護符」に導かれ、関東各地の土地に根ざして暮らすお百姓の姿に出会いました。そして、護符が関東平野を取り巻く山々で発行されていること、また護符に描かれている獣が、かつてその山々に生きたヤマイヌ・ニホンオオカミであることを知り、これらの動物と深く関わりを持って暮らしてきた山の人々と出会うことができました。めぐりあったお百姓の風貌や語りぶりには、その土地が湛えている、“時の流れ”や“風合い”が息づいていると感じました。(後略)』と。実際、そういう映画だった。

 映画はすごく丁寧にそして誠実に作られていた。そして、しっかりと自分の脚で調べ上げてからカメラに収められていた。その意味ですごく好感の持てる映画だった。そして、わたしにとっては知らないことばかりで、昔からずっと、関東平野に暮らしてきた人たちの心を支えている文化の一部に直接触れられた気持ちがした。

 その意味では、見ていて、すごく勉強させられる気分なのだが、なにしろ、勉強するのが根っから嫌いなわたしには、あまりしっくり来なかった。わたしには、もっと現実的な、生活的な部分の方がおもしろかった。

 たとえば、“川崎市宮前区土橋”は、遠い彼方の地ではなく、横浜市鶴見に住むわたしには、地続きの感覚だ。そこは、最近になって急に開発された土地で、表面的にはマンションや団地や戸建ての建売住宅ばかり目に入ってくる。

 でも、そこにも、昔からの暮らしがあり、昔からのお屋敷が今も残っていて、昔からのお百姓さんが昔のやり方を意識的に守って農を営んでいらっしゃる姿があった。それは、全国の何処にでもある姿ながら、改めて驚きであり、新鮮であった。人工的なマンションや戸建ての住宅で覆われている地区だけに余計にそんな印象が強かった。

 “川崎市宮前区土橋”が、昔から“竹の里”と呼ばれ、筍の特産地だったと知らされるとびっくりする。柔らかくて美味しいんだって。映画の中では、手間隙かけて、昔ながらの筍づくりをされているお百姓さんが紹介されていた。

 その竹林がスクリーンに映し出された時にびっくりした。えっ、これが竹林なの?そこは綺麗に手入れされた竹の庭にしか見えなかった。まるで、京都のお寺だかどこかの。

 で、筍のつくり方に二度びっくりさせられた。「埋けづくり」だとかなんだとか紹介されていたが、名前は忘れた。わたしは、筍なんて、竹林の中で勝手に生えてきて、それを掘り出して出荷するものだとばかり思っていた。だって、春に筍堀に行くといつもそんなやり方だったからだ。でも、“川崎市宮前区土橋”の筍は違っていた。

 筍は根っこのうちに一旦掘り起こして、筍の根を見つけて、穴を掘ったところに埋け直すのだった。映像で見せてもらったのだが、筍の芽なんてのも初めて見た。穴に埋け直して、落ち葉や土を被せて、空気が入って土が柔らかなので、育つ筍も柔らかで美味しいのだそうだ。しかも、土の上に顔を出す前に掘り出して出荷するのだそうだ。

 びっくりの3連発4連発だった。

 しかも、そのお百姓さんは、歳を取っているので、たくさんの面積はできないけれど、それに手間隙もかかるけれど、昔ながらのやり方で作っていると、後世の人になにほどかの貢献ができるのではないかと思ってやり続けているんだと仰っていたのに感動した。

 農や食といった、基本の文化を伝承しなければという考えが身に着いているのだった。

 そういうお百姓さんが暮らしている集落だからこそ、「オオカミの護符」や「土橋御嶽講」なんてのが今に続いているのだろう、とそこまではよくわかった。「土橋御嶽講」は、講中のメンバーが集まって、籤を引き、当たった人が青梅の御嶽神社に参拝してお祓いを受けるのだった。足で歩いてお参りしていたのだから、そのエネルギーはすごいなあと驚嘆させられる。

 プロデューサーの小倉美恵子さんは、自分はこれまで留学生のお世話などの仕事をしてきたが、もっと自分の足元を見詰めなおしたくてこの映画を作ったのだ、と説明されていた。そのために、地元の祭礼や生活行事を撮りためて来られているらしい。

 小倉さんの生家も“川崎市宮前区土橋”にあり、農家か地主さんだったみたいだ。その蔵の入口や屋敷の出入り口や竃(かまど)の傍に「オオカミの護符」が貼ってあるのだ。今も。そして、それは毎年決まった時期に、御嶽神社の御師さんが持ってきてくれるのだという。で、映画では、ナレーションは、男声と女声の2通りで進められていく。男声は主に事柄の説明であり、それに対して、女声は、プロデューサー小倉さんが受け持たれている。自分の生家に貼られていた「オオカミの護符」から話しが始まることから考えると、それも自然で当然だろう。

 しかし、だったら、映画の頭の部分で、小倉さん自身が画面に登場して、ここが私の生家で、ここに貼られている「オオカミの護符」にいかなる関心と興味を抱いたのか語るべきだった。(ナレーションでは語られているのだが。)それがないので、映画の構造が定まらなかったのだ。「オオカミの護符」を求めてカメラは様々なところの事柄を訪ね歩くのだが、誰が何をしているのかが明確でなく、映画は漂流してしまうのだった。家を建てるのに、土台石をしっかりと据えつけないまま柱を立てて屋根を乗せていったみたいなものになった。

 「オオカミの護符」に描かれていた狗の姿は、実はニホン・オオカミを描いたもので、ニホン・オオカミはつい最近まで棲息していて、御嶽神社の奥の院のある山を遥拝し、そこにもきっとオオカミが棲んでいて、神社の近くにはオオカミの骨を持っている人がいて、オオカミは猪や鹿を追い払うので百姓にとってはありがたい獣で、そこから信仰が生まれ、オオカミの赤ちゃんが生まれたところにはお供えを持って行き、それがお炊き上げという宗教行事になって、それで関東一円の山々の神社で「オオカミの護符」が発行され・・・と、物語は展開していくのに、どこにも収斂していく場所がなかった。

 そうした事実や、そうした歴史が、映画を見ているわたしの今と、なかなか交錯したり交流したりしていかないのだ。民俗学の研究者や、研究者じゃなくても民俗学に興味がある人にとっては宝の山のような映画なのかもしれない。しかし、勉強嫌いの観客であるわたしには、映画の現実を、わたしの今を生きている現実へとなかなか手繰り寄せられないでいた。

 きっとそれは、プロデューサーの小倉さんも意識され、気づかれていたのではないだろうか。だからラストのシーンで、お年寄りの女性と、今は公園になっている“川崎市宮前区土橋”の雑木山を訪ねられる。しかしそこには、すでに雑木山はほんの面影程度にしか存在せず、なんだか、とってつけたようなシーンになってしまっていた。狙いとか気持とかは分かるのだが。

 いただいたお手紙の中で、「オオカミの護符」の普遍性ということを気にされていた。たしかに、「オオカミの護符」そのものは、今の社会に辛うじて残っている特別な存在かもしれない。しかし、冒頭で小倉さん自身が登場し、(映画の途中で何度か小倉さんの姿が見えていたのに、冒頭で登場しないのが余計不自然に感じられた。)映画の展開を通じて今を生きる小倉さんにとっての「オオカミの護符」の意味や意義が問い続けられていったならば、映画を見ているわたしの今にとっての「オオカミの護符」の意味や、意義を絶えず問い返しながら映画が見られていたのではないかと思う。

 映画はすばらしい力作だった。

 しかし、映画は見る人の勝手だと思っている。わたしにとってはなかなか親しくなれなかたったし、わくわくもしなかったという個人的な感想である。

『オオカミの護符』 支援団体

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製作・配給:(株)ささらプロダクション

共同製作:(株)環境テレビトラスト 
     「オオカミの護符」製作委員会

支援 : 文化庁

後援 : 川崎市・川崎市教育委員会

協賛 : セレサ川崎農業協同組合
      土橋町内会
      (有)有劦設計
      (株)サメジマコーポーレーション
      (有)大倉商事

協力 : 宮前区観光協会
      たまフォーラム
      川崎土橋郵便局
      東京急行電鉄株式会社

制作協力: グループ現代
        民族文化映像研究所

撮影協力: 土橋御嶽講中
        馬絹御嶽講中
        寶登神社氏子中

        武蔵御嶽神社
        寶登山神社
        猪狩神社
        三峯神社

        国立歴史民俗博物館
        青梅市郷土博物館
        川崎市立土橋小学校
        たましん地域文化財団
        武州御嶽山御師家
           古文書学術調査団
    (法政大学/青梅市教育委員会)
        宮前平ハイデンス
        コトー宮前平

ス タ ッ フ

監督 : 由井 英

製作 : 小倉 美惠子  小泉修吉

撮影 : 伊藤碩男     由井  英

音声 : 河合樹香

助監督: 中嶋美紀

音楽 : 姜 小青(中国古箏)
      千島幸明(篠笛)

ナレーター: 糸 博

語り : 小倉 美惠子

題字 : 永田 紗戀

版画 : 小林 奈那

編集/録音: アクエリアム

上映スタッフ: 吉江 志づか  大江純恵

デザイン: 熊澤正人+内村佳奈
        (POWER HOUSE)
      岩井友子

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『オオカミの護符』 上映情報!

上映会の情報はこちらから ↓ もちろん映写機です!.png

次回作のお知らせ!

「オオカミの護符」に続き、ささらプロダクション第2作目「宮前の講(仮題)」を財団法人トヨタ財団の助成を受け、現在、制作中。
 詳細はブログををご覧下さい。