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朝焼け:三峯神社(埼玉県秩父市)からの眺望 映画「オオカミの護符」より

オオカミの護符 表紙_150.png川崎の我が家で目にした一枚の護符。
描かれた「オイヌさま」の正体とは?

50世帯の村から7000世帯が住む街へ変貌を遂げた、川崎市宮前区土橋。長年農業を営んできた著者の実家の古い土蔵で、護符の「オイヌさま」がなにやら語りかけてきた。護符への素朴な興味は謎を解く旅となり、いつしかそれは関東甲信の山々へ。都会の中に今もひっそりと息づく、山岳信仰の神秘の世界に触れる一冊。

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発売中!! 【在庫あり】  1,575円(定価)
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著者紹介 小倉美惠子 (おぐら みえこ)

1963(昭和38)年、神奈川県川崎市宮前区土橋に生まれる。アジア21世紀奨学財団やヒューマンルネッサンス研究所での勤務を経て、2000年から自主的に地元「土橋」の映像記録を開始。2006年、民族文化映像研究所所員であった由井英と共に㈱ささらプロダクションを設立し、プロデューサーとして2008年に映画「オオカミの護符-里びとと山びとのあわいに-」(文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、地球環境映像祭アース・ビジョン賞受賞)、2010年「うつし世の静寂(しじま)に」を公開。

「オオカミの護符」書評 共同通信社 配信記事

精神の古層に迫る旅 評・会田弘継(共同通信編集委員)

 川崎市の新興住宅街に点在する農家の間に今も残る「オオカミの護符」の源を追いながら、日本人の精神の古層に迫っていくドキュメンタリーだ。著者自身、そうした農家の一つに生まれた。東京五輪前には50戸ほどの農家を数えるにすぎなかった多摩丘陵の生地は、今では7千世帯近くが住む瀟洒な住宅地になった。
 追跡の旅は、著者の幼いころから家の土蔵に張ってある「護符」から始まる。祖父母はそのお札に描かれる黒い獣を「オイヌさま」と呼んでいた。
 一年の農事の始まる前の春先に、そのお札を奥多摩の御岳山の神社にもらいに行く「御嶽講」を追って、明治期に日本列島から絶滅したニホンオオカミを守り神とする古代からの信仰を知る。オオカミ信仰をたぐって、さらに、奥多摩から秩父の奥山に分け入っていくと、オオカミのすみかであるだけでなく、関東平野を潤す川の水源として「命の根源」になっている山々への山岳信仰の世界にたどり着く。
 こうして読者は著者に連れられ、関東一円から長野、山梨、静岡を含む一帯の近代以前の「常民」の精神世界を旅することになる。話は時に縄文時代までさかのぼる。
 鹿の肩甲骨を焼き、そのひびから25種類の作物の作況を占う太占の秘儀が今も行われているのに驚く。作況占いからさらに一年の天候予測をする古老が、都心から遠くない調布市で営々と農業を続ける姿に感銘を受ける。
 著者がこの記録の旅を始めたのは、死んでしまった祖父母にあやまりたかったからだという。子どものころ、新興住宅街の農家に生まれたことや農業を営む祖父母が恥ずかしくてしょうがなかった。恥じて逃げているうちに、大切なものを失ってしまったと気付く。それは実は、近代日本人の多くが心の奥底にしまっている悲しみだろう。
 追跡の物語はまずドキュメンタリー映画となって、文化庁の文化記録映画優秀賞を受けた。本という形をとり、また奥深さを加えた。(新潮社・1575円)

●○● 文化放送 ラジオ番組「浜美枝のいつかあなたと」 2/19(日) 10:30~ ●○●

小倉がゲスト出演します。
浜さんと小倉が会うのは今回が初めてではありません。
番組をお楽しみに !!

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浜美枝ダイアリ-『あなたに逢いたくて』

◆◆◆ 「オオカミの護符」 書評 毎日新聞(全国版) 平成24年1月15日 朝刊 ◆◆◆


今週の本棚:田中優子(法政大学教授)・評 『オオカミの護符』小倉美惠子・著 (新潮社・1575円)



◇山の信仰から捉えた「風土」としての東京
 『オオカミの護符』は「ささらプロダクション」によってまず映画として作られ、二〇〇八年に公開された。当時、私はこの映画を見て驚愕(きょうがく)した。多くの通勤者が行き来する東急田園都市線、鷺沼およびたまプラーザからすぐの「土橋(つちはし)」という土地に、地に足をつけて自然とともに生きているお百姓の暮らしが、そのまま残っていたからである。映像には、今でも活用されている谷戸(やと)、田畑、竹林の風景があった。そこでは、伝統的手法でタケノコが栽培されていた。

 私がこの映画に関心をもったのは「講」を扱っていたからだった。講は中世の日本で全国に拡(ひろ)がり、江戸時代では組や結(ゆい)とともに、集落を構成する基本組織である。川崎市宮前区に位置する土橋は首都圏なのだが、今でも御嶽(みたけ)講がある。この講では武蔵御嶽神社(東京都青梅市)に参詣し、オオカミを描いた護符をいただいて帰り、それを戸口に貼って魔除けの「オイヌさま」として祀(まつ)るのだ。

 その映像も充分にインパクトがあるが、本書は映画を作ってゆく過程で、プロデューサーの小倉美惠子(著者)が映画監督の由井英(すぐる)とともに、土橋のお百姓の暮らしと、関東甲信越一円に拡がるオオカミの信仰を発見してゆく過程を書いたもので、その発見が実にスリリングに面白く書かれている。

 著者は土橋に生まれ育った。本書冒頭には地元の子供たちへの手紙が置かれているのだが、そこで著者は自身の小学生のころの体験を書いている。同級生が自分の家を「ボロい家があってさ、そこの前を通ると臭いんだ」と言うのを聞き、農家であることを恥じたという。戦後は、江戸時代では当たり前であった肥え引き(下肥を都会に汲み取りに行って肥料に使うこと)さえ蔑視(べっし)されるようになった。私は下町の生まれだが、同じような体験がある。高度経済成長期に育った世代は、伝統社会が急速に崩壊してゆく過程で、生まれ育った場所への恥じらいと、同時にその喪失を体験したのである。自らの文化を低い貧しいものとみなし誇りを持てなくなるこの現象は、グローバリゼーションとともに、今アジア全域に広がりつつある。

 しかしそれでも、著者は多くのことを忘れないでいた。土蔵の扉に貼られた「オイヌさま」の護符を覚えていた。神仏に手を合わせ、土地の渡り人に施しをし、古来の物語を語る祖父母の姿を忘れなかった。その記憶を軸に、著者は生まれ育った土地を再発見してゆく。オイヌさまとは、すでに日本列島で一〇〇年以上前に絶滅したニホンオオカミであること、ニホンオオカミはその信仰が拡がった武蔵国とともに消滅したこと、時を同じくして山への信仰が失われ始めたことを、本書は発見してゆく。オオカミへの信仰は縄文時代からあったことが、その身体の一部をお守りにする風習から分かっているという。オオカミの護符を発行する神社は奥多摩、秩父、山梨を中心にしており、その分布とニホンオオカミのかつての棲息(せいそく)域は一致する。驚いたのは、その信仰の山々が今の東京を含む武蔵国を取り囲んでいることだ。そしてその山々を源とするのが、利根川、荒川、多摩川である。オオカミとともに風土としての東京が見えてくる。これは新しい東京(首都圏)観だ。

 オオカミの護符は、地域の自然とくに山々への信仰から生まれ、その消滅とともに消え去ったかに見えた。しかし信仰は首都圏においてさえ、農業とともに生き残っていた。見れども見えず。私たちは山と農村の生活にまなざしを向けなかっただけであり、それは消えたわけではなかったのだ。その姿は、各戸に貼られた護符だけでなく、神社に祀られたヤマイヌ型の狛犬(こまいぬ)にも見られる。とりわけその狛犬が多いのは秩父の三峰山で、柳田國男の『山の人生』はここの「御産立(おぼたて)」という行事を書いている。オオカミのお産の時の声を聞いた者がそれを訴えると、土地の神社が小豆飯を炊いて捧(ささ)げる「御炊上げ」をおこなう行事である。しかし著者はお百姓から別の話を聞いた。獣たちが田畑を荒らす所行を、オオカミの声が防いでいた、というのだ。そこで、お百姓がオオカミの声に奉納したのが「御炊上げ」だった。神社の行事は、実はお百姓の生活に由来するものだった。山と里、山の信仰と農業のつながりを、著者が確認した瞬間である。海と山がつながっているように、農も山と結びつき、だからこそ里に御嶽講が生き残ったのである。

 自然の力と人の力が出会うところにこそ「仕事」が立ち上がる、と著者は言う。その言葉は大震災から一〇カ月を迎えた私たちの胸に響く。

 「ささらプロダクション」は二〇一〇年には『うつし世の静寂(しじま)に』という映画を作っている。やはり宮前区を中心に、念仏講、無尽講、巡り地蔵、そして神社合祀(ごうし)で失われた鎮守の杜(もり)での獅子舞奉納を撮った映画だ。しかし単なる行事の記録映画ではない。むしろ年中行事や祭がその背後に抱えている壮大な自然と日々の仕事の深さを、見事に捉えた映画である。

毎日JP WEBサイト


DVD 『オオカミの護符』.jpg 2008年制作 / 114分/

DVD 「オオカミの護符」 3,500円(税込)

2008年制作/114分
監督:由井英 企画制作:小倉美惠子 
プロデューサー:小泉修吉 撮影:伊藤碩男 

助成支援:文化庁 後援:川崎市/川崎市教育委員会

☆平成20年度 文化庁映画賞 文化記録映画 優秀賞
☆2009年アース・ビジョン 
  第17回地球環境映像祭 アース・ビジョン賞
☆日本映画ペンクラブ 推薦

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